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最後は、完全に教師としての権限を振りかざした仁志くんの言葉に、私はぐっと息を詰める。
「さっき、体育館裏で電話してたでしょ……メグと2人で聞いちゃったんだ。だから」
「……!」
仁志くんの目が、わずかに見開かれた。
そのことについての言い訳など無駄だと思ったのか、仁志くんは辛そうに目を細め、私を見つめる。
「……なら、なおさらだよ。俺とも、いない方がいい」
「仁志くん!」
「どうなるか判らないんだ。だから、頼む……戻ってくれ、朱音ちゃん」
感情を極限まで押し殺した、大人の男の人の声だった。
それが私に向けられたものではないと判っているのに、背筋がゾクンと冷たくなる。
「戻るんだ。……多分久遠寺は、こっちに人気がないことを判って俺を誘い込もうとしてる。巻き込まれないうちに、早く」
「仁志くん……」
「……戻らないと、妹の座、取り上げるぞ」
ふっと無理をして笑う仁志くんの瞳には、私を心配する気持ちが見て取れた。
せめて……せめて涼太くんがいてくれたら……。
そう思いながら、私は一歩、後ずさった。
そんな私を見つめる仁志くんの目が、優しくほどける。
いい子だね、なんて褒めてくれる時みたいに。
思わず泣きそうになる。
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