曇天の下で。

6/18
前へ
/18ページ
次へ
  「メグ」  私は、後ずさりしたメグの腕を掴んだ。  ハッと私の顔を見たメグに、小さく「しっかりして」とささやく。  メグは不安げに瞳を揺らし、やがてもう一度久遠寺さんを見上げた。 「愛美。先生とのこと、見逃して欲しい?」 「……!?」 「お願いしてくれたら、見逃してあげるわよ」  久遠寺さんが何かを企むように目を細めたのが判った。  立ち尽くすメグの代わりに、私は一歩前に出る。  ──ずっと、メグが助けてくれた。  だから、今が私の頑張れるところ──。 「何が、目的なの。久遠寺さん。私の親友に──メグにこれ以上ひどいこと言ったりしたりしたら、許さない」  眉根を寄せ、久遠寺さんを睨みつける。  すると彼女は意外そうに私を見下ろした。 「……意外に気が強いのね。口先でどうにか言いくるめられるような気弱な子、って報告にはあったけど」  久遠寺さんは壁にもたれたまま、苛立ったように上靴の底を一度、ペタンと踊り場の床に打ち付ける。 「役立たず。後で叱っておかなくちゃ」  その可愛らしい顔からは想像もできないような、冷たく惨い声だった。  久遠寺さんは足を交互にペタペタと慣らしながら私を見下ろし、笑うのをやめた。 「私は、愛美と話をしているの。家族の話。他人のあなたには関係ないわ」 .
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加