ある少女の悲劇。

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   ──呼ばれている。  あからさますぎる挑発に溜め息をひとつついて、俺は仕方なく足を進める。  2階は、家庭科室。昇降口に足を踏み入れると、2階の廊下をぱたぱたと走る音が響いて──そして、ガラリとドアが開かれた。  もう焦ることもないだろう、と北校舎の引き戸をそっと閉めてから階段を上がり出す。  家庭科室──か。女が咄嗟に手にできる武器がてんこ盛りの場所だな、と考えてうんざりした。  でも、ここで久遠寺を捕まえて陽香の居場所を聞き出すことができれば、20時には余裕のはずだ。  陽香を連れて、中居はそう遠くへは行けないだろう、という確信があった。  おそらく、共謀している久遠寺がひとりでも気軽に行ける範囲のはず。  考えているうちに、家庭科室のドアが開いたままになっているのが見えた。奥の方だ。  俺は化学教師だからほとんどここに来ることはないけれど、造りはちゃんと頭に入っている。  そっとドアから顔を覗かせると、そこに久遠寺はいた。そう手間がかからなかったことに、溜め息が漏れる。  いや、浅海さんがひどい怪我をしてしまったが。  久遠寺は一番の奥の作業机に腰を下ろし、俺の姿を確認するなり足を組んだ。  そのわざとらしい仕草にうんざりする。 .
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