ある少女の悲劇。

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  「私ね、たまたまお父さんの会社のビルから見てたのよ。斉木守さんと、弘ちゃんの妹の貴恵さんが落ちるところ」 「……見てたのか? あれを……!?」  久遠寺は潤んだ瞳で俺を見つめながら、コクンと頷いた。 「事件に気付いて、慌てて加賀美さんが私を窓際から引きはがしたけど、もう、遅かった。私は全部見た後で、頭からあの光景が離れなくて……しばらく眠れなかった」  そう言って、久遠寺は制服の胸ポケットから新聞か何かの切り抜きを取り出し、俺に差し出す。 「先生、見て」 「……?」  少しふら付きながら教壇に手をつきつつ、俺は久遠寺に向かって足を踏み出す。  警戒心が薄れたわけではなかったが、話しながら久遠寺の目がやけに幼さを帯びてくるのが気になった。  この娘は、守ってくれるはずの大人に犯されてから、ちっとも成長していないのではないだろうか。  ……だとしたら、あのクリスマスの夜から泣くのをひたすら我慢している小さな子どもを心のどこかに存在させている俺と同じだ。  久遠寺の差し出した記事を受け取り、俺はそれを開く。 “男女が転落死”  死亡・中居貴恵(21)  死亡・斉木守(19)  あの頃何度も見た記事だ。 .
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