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……何だって。
久遠寺は右手をひらひらさせながら、やがてそれをぎゅうっと握り締める。
女の子の手なのに、筋が白くなる程強く握り締められたその手を自分でも見つめながら、久遠寺はぽつりと落とすように続けた。
「小さい男の子が、何かしら不安に駆られて急所を握り締めながら寝てしまうことがあるっていう話……先生、知ってる?」
「え……? あ、ああ……」
「あれをね、弘ちゃんは大人になってからやらなくちゃいけなくなったの」
「どういうことだ……?」
「想像してみて、先生……」
ペタ……と上履きをわずかに鳴らしながら、久遠寺は俺の胸に手を伸ばしてくる。
さっきのような緊張と恐怖はもうそこにはなくて、俺はただ久遠寺の白く細い指先を見つめていた。
やがて、久遠寺の指が俺のロングカーディガンに触れる。
そのまま俺の胸板を確かめるようにすすす……となぞりながら、久遠寺はごく自然に──まるで甘えるように、そこに顔を埋めてきた。
「お酒に酔って、いい気分で眠り込んで……途中で、強烈な快楽に意識を引き戻されるの。何かと思って目を開けたら、実の妹が自分に跨ってた時の恐怖と自分の矛盾が……先生に判る?」
「──……!」
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