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だから、一色の居場所を脅かしたくなるんだろう。
本当に欲しいわけでもないのに、わざとそれが欲しいなどと言ってみたりしてしまうのかも知れない。
久遠寺の想いが、ゆっくりと身体の中に馴染んで血の巡りとともに廻っていくのを感じながら、俺は思った。
理解できるということは、俺にもそういう部分があるということだ。
俺には、本当の両親もきょうだいも、何もいない。
最初からひとりだ。
だから、比べるもののありすぎる久遠寺のようにはならなかっただけのことで──。
……どうしよう?
この少女を、壊れるまで慰めてやろうか?
それとも、弘毅へのあてつけとして……狂う程に壊してやろうか?
他の誰でもない、自分の中から噴き出す毒に酔わされながら、俺は久遠寺の髪を撫でる。
傷付けられ続けていたにしても何にしても、綺麗な女の子だ。
いつの間にか涙を浮かべて腰を抱いてくる久遠寺は、明らかに俺に救いを求めている。
久遠寺は俺にしがみついて、甘い溜め息を漏らした。
可哀想に。
そうして弘毅を求めても、やつ自身を与えられることはない少女の身体の底にあるものを思うと、壊してやりたくなる。
壊れることで救われること、あるよな。……判るよ。
俺でいいなら、そうしてやろうか──と顔を傾けた瞬間。
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