ある少女の悲劇。

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   悪いけど、その手には乗らない自信がある。  そんなもので、俺が──大人の男がどうにかなるのだと思ったら大間違いだ。  と。  久遠寺菜々子の白く細い太股の記憶を振り切ろうとして何故か昨夜の陽香を思い出し、襟元がふっと熱くなる。  妙な情景が吹っ飛んだのはいいけれど、こっちは俺の全部を飲み込んで押し流していきかねない勢いがあるだけに、ふと立ち止まる。  こんな時に何考えてるんだ、俺。馬鹿か。  北校舎に足を踏み入れたところで、口元に手を当ててふうと息をついた。  風がない分寒さはましだろうと思ったが、冷たいまま固まったような空気がひんやりと校舎内を満たしていた。  ──いや、多分久遠寺はこの中に逃げ込んだ。  出入り口はここだけだし、隠れる場所などたかが知れている。  悲鳴のひとつでも上げられる覚悟をして、俺は1階の作業実習室を覗き込んだ。  ガランとした部屋は静まり返っている。開けようとドアの取っ手に手を掛けるが、見た通り南京錠がかかっていた。今の間にここをどうにかしたとは考えられなくて振り返る。  すると、たった今俺が入ってきた入り口のすぐそばの非常階段を駆け上がる軽快な音が響いた。  それとともに、くすくすと笑う少女の声。 .
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