ある少女の悲劇。

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   久遠寺の言う“檻の中”が単に立場のある家に生まれたことを指すのなら、それはある意味仕方のないことで、それを羨ましく感じる人間から見れば、ひどくわがままで贅沢な悩みでしかないと思う。  が、今の言葉だけで俺にそれを判断しろというのは、無理がある。 「お父さんとお母さんは多分、そんなに悪くないの。私をちゃんと教育しようと思ってたんだろうから」 「……」 「自分達で作った子どもを、ちゃんとした人間に育てるのも、愛情──そう、思うようにはしてるんだけど」  虚ろな目で床のリノリウムを眺めながら、久遠寺は穏やかな様子で続ける。 「──でも、それを他人に任せちゃ、駄目なのよ」  ヒラリ、と久遠寺はまたスカートを揺らしながら床に降りた。  ペタ……と足音をさせながら久遠寺はカーテンをいっぱいに開け、雲行きの怪しい空を見上げる。  今にも降り出しそうな真っ黒の雲を満足げに見つめながら、久遠寺は溜め息をついた。  そして、今いっぱいに開いたカーテンを、こちらに振り向きながらまたシャッと閉めてしまう。  久遠寺はもったいぶるように膝を閉じ、掴んだカーテンを自分の腰の辺りでぐしゃぐしゃと丸める。 「私の世話係だった、秘書崩れのあの男」 .
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