ある少女の悲劇。

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  「久遠寺、いいから……判ったから、スカート、下ろして」 「……さすがに大人でも、これは効くでしょう?」  クス……と笑った久遠寺は、指で摘んでいたスカートをハラリと落とした。  今の言葉からして、他人に晒したのも初めてではないのだろう。  久遠寺がその事実を切り札として使ってきたのであろう現実まで垣間見えて、俺はその恐ろしさに背筋が凍りそうだった。  まだ──まだ17だろう。なのに、どうして。 「最初はね、本当に判らなかったの。自分が何をされているか。ただ、痛くて苦しくて──でも、それに慣れてくると、褒められたの。上手にできるようになったね、すごいねって……」 「久遠寺、お前……」 「坂田先生、判る? 子どもって単純だから、大人に褒められるともうそれで許された気分になるのよ。愛されてるんだって、勘違いしちゃうの」 「……」  気分が悪くなってきて、教壇になっている大きな机にドンと手をつき身体を支える。 「だから、あの頃の私にはあの男が全てだった。頭ひとつ撫でてくれない親なんかより、ずっと深く繋がってるって──勘違い、してた」  久遠寺はもう一度作業机に腰を下ろすと、小さな子どものように足をプラプラと交互に動かしながら俺を見た。 .
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