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「岳ちゃん……?」
顔を上げると、岳ちゃんの顔が強張っていた。
「……悪い、ハル」
強張った表情のまま、岳ちゃんの瞳が背後を示すように動く。
その緊張感に押されるように顔を上げて──ひっ、と声が漏れた。
岳ちゃんの背後に重なるように、中居さんがあの昏い目をして無言で佇んでいたのだ。
「やっぱりお前か、虹原……」
防水と防寒を兼ねたジャージの襟の中、くぐもった声でそう呟くと、中居さんはのろり……と後ろから岳ちゃんの顔を覗き込む。
「お前の腰に当ててるのは、ダガーナイフだから。手元が狂ったら大変なことになる……動くなよ」
中居さんの言葉にわずかに頷きながらも、岳ちゃんはチッと舌打ちをした。
「最悪……」
あたしを抱く岳ちゃんの腕に、ギュッと力が込められた。
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