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さっきまでのゆったりとした口調が嘘のように、中居さんは一気に話した。あまりに流れるように話すから、あたしは中居さんが今何を話したのか、後から追うように考える羽目になる。
さすがにふうと一息ついて、中居さんはまたゆっくりと話し出した。
「もう会ってるはずだ。久遠寺のお姫さんだよ。彼女は全部、知っている──じゃあ、な」
そうして、中居さんは一方的に電話を切った。
中居さんはそのままベッドから立ち上がると、あたし振り返りニッと笑う。
「あなた……一体何がしたいの……?」
そう訊くと、中居さんは携帯を厚手のジャケットの胸ポケットにしまいながら、しばらく逡巡した。
「あたしは、口実なんでしょう? 馬鹿なことはやめて」
「……さすが、坂田の女。馬鹿じゃないんだな」
思わず眉根を寄せる。名前以外何も知らない赤の他人に──しかも自分を誘拐し監禁までしている男に、馬鹿にされるいわれはない。
「口実でも何でも、つがいになってるんなら一蓮托生──あんたは坂田の人生に付き合う義務があるんじゃないか?」
「一蓮托生……」
普通の生活の中ではおそらく使うことのない、その言葉。
どんな結末を迎えようとも、運命や行動を共にする……そういう意味の言葉だったはずだ。
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