真っ黒の淵。

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   言われてみれば、納得せざるを得なかった。  あたしが仁志くんに対して抱いている想いは、確かにそういうことなんだから。  でも……。 「……そんなのは、これと決めた相手とだけ通じ合っていればいい話じゃないの……? 他人のあなたでは、あたし達をはかれない。あなたの見ていることを、あたし達に押し付けないで」  すると、中居さんは睫毛をわずかに伏せた。 「なるほどな。でも、そんなふうに考えている女が──あんたがいるっていうのに、どうして坂田はああなんだ?」 「え?」 「あんた、一回坂田に捨てられただろう。全部、調べてある」 「……え……」 「……知らないのか」 「そういうあなたは、知ってるって言うの」 「言っただろ。全部、調べた。坂田が生まれた経緯から、最近のことまで全部」  ゴクリ……と息を呑む。  確かに、ずっと疑問だったこと。  ずっと昔から、仁志くんの中には誰にも犯せない領域がある。  一度は、触れたと思った。  これ以上ない程深く交われた──とさえ。  けれど、あの秋の中にあたしは置き去りにされた。  追えばよかったのに、伸ばした手をもう一度振り払われるのがただ恐ろしくて、できなかった。  それほど頑なな、何か。 .
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