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昨夜、仁志くんの熱にゆるゆると穿たれながら、あたしはようやく彼の中の不可触領域を視た気がした。
中居さんが言っているのは、もしかしてそのことなんだろうか──?
仁志くんと敵対しているような素振りをしながら、実際彼の周りにいる誰よりも彼のことを知ってるんじゃないか。
いつの間にか薄れていく不安と恐怖も手伝ってか、あたしは中居さんにそんな印象を抱き始めていた。
あたしのきょとんとした顔を見ながら、中居さんはクク……と苦笑する。
「真に受けるなよ。俺はあんたを誘拐してきた男だぞ」
「──!」
言われて、身体を強張らせた。
とはいえ、今の中居さんはとてもリラックスして話をしているような。
嘘つきや詐欺師は呼吸をするように偽りを口にするものだとは思うんだけど、どうも中居さんはそういう類の人間とは違う気がしてならない。
悪い人でなければいい、何か理由があってこういうことをせざるを得ない人であればいい──というのは、完全なあたしの妄想めいた願望だろうか。
中居さんは葛藤するあたしを見ながら、肩を竦めて笑う。
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