真っ黒の淵。

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  「──お人よしな女だな。騙されても知らないぞ」 「お、大きなお世話です」 「……」  中居さんは薄い笑いを浮かべながら、部屋の外からパイプ椅子を持ち込み、あたしの正面に腰を下ろした。  中居さんの切れ長の涼やかな瞳と薄い口唇は女性が好みそうだ……と思った。  洗って乾かしただけのような無造作な髪型も、中居さんの雰囲気にはよく合っている。  ……目が昏いことを除けば、どこもかしこもまともな男だ。  こんな男がどうして、こんな……。 「あの……ここ、どこなの……?」  中居さんは何も答えずあたしを探るようにじっと見つめる。  恐怖を煽る感情が中居さんの瞳にはなく、戸惑いながらそれを見つめ返した。  やがて、中居さんはふっと落とすように呟く。 「……水族館の、スタッフルーム旧館」 「水族館……!?」 「子ども向けの海洋博物館と併設されてる。知ってるだろ」 「え、ええ……」  子どもの頃から、何度も訪れていた水族館だ。  隅から隅まで知っているつもりでいたのに、まさかこんな場所があるなんて……と眉をひそめる。 .
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