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「そこの、明かり取り」
中居さんが、天井近くの小さな窓を指し示した。
「その外が、イルカショーのプールの通路になってる。こんなところを覗くやつはまずいない」
「あ……!」
「一応、ここの職員なもんでね。バレたらクビだな」
クク……と笑いながら、中居さんは椅子の背もたれに上半身を預ける。
あまりに余裕のあるその態度で、ますます判らなくなった。
「お仕事、大事じゃないの……? どうして、よりによって職場で、こんな」
「仕事なんて、何をしようと問題じゃない。どこで何をしようと、俺の自由だ」
「……。さっき、仁志くんに“俺のお姫様”って……誰なの? 海棠高校にいるの?」
「えらく質問攻めだな。人質のくせに」
「……人質だけど、あなたが答えてくれそうだから」
あたしがその場に座り直すと、チャリ……と手錠の鎖部分の音が小さく響く。
「俺のお姫様、ね……」
中居さんは足元に視線を落としながら、絶望の色を滲ませて皮肉な笑みを浮かべた。
あたしが黙ってその言葉の続きを待っていることに気づくと、彼は目元までかかる髪を手櫛でクシャ……とかき上げる。
「正直、よく判らないな。お姫様だと思ってたけど──いや、今でもそう思ってるけど。どうしてああいう女になったのか……俺には、判らない」
「……?」
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