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縛られた手首を見ながら、深く溜め息をついた。
……判らない。
嘘を、ついているかも知れない。
そう思ってはみるものの、全てを諦めてしまったかのような中居さんの顔を見ていると、判らくなってくる。
岳ちゃんが、嘘を書いたとも思えない。
ただ、本当に──中居さんの家を外から見れば、そんなふうにしか見えなかったのかも知れない。
けれど、彼らには本当にあの結末しかなかったんだろうか。本当に、他に救いの道はなかったんだろうか。
中居さんが大切にしているという、久遠寺菜々子という少女もそうだ。彼女もまた、哀れだった。
そう大きな傷も受けずに自分が大人になれたことを感謝してしまう程に、中居さんと彼女の過去は凄まじいものだった。
何故そこまで話してくれるのか……と問うと、中居さんは肩を竦めた。
「誰も知らないことだったから、誰かに知って欲しかったのかも知れない」──と。
こんなことをせずともちゃんと話をしてくれれば、耳を傾けたのに。
おそらく、仁志くんだって同じ気持ちになるはずだ。
でも、これまで世間が中居さんと彼女にそれだけの仕打ちをしてきたんだろう。
声を上げようとしたそばから、助けを求める声は黙殺されて──。
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