真っ黒の淵。

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   その孤独な状況を想像しただけで、涙が出てくる。  この世界は、嘘つきだ。  弱者に手を差し伸べることを美徳としながら、誰もそれを実行していないんじゃないの。  美徳は口ばかりで、自分には余裕がないからとみんな嘘をついているんじゃないの。  だから、中居さんのような人ができてしまうんじゃないの。  菜々子のような少女にしわ寄せが行くんじゃないの。  今までほとんど考えたことのなかったことが、身体の中をぐるぐると不快に巡る。  かといって、何もできないあたしはこうして誘拐されて、閉じ込められてしまった。  中途半端な関わり方をしていたためにこんなことになって──仁志くんに迷惑をかけているんじゃないか。  最初にこの部屋で目覚め“殺されたらどうしよう”と思った時と同じことを、違う意味で思った。  再会してからというもの、仁志くんは一生懸命あたしに許しを請うていた。  愛してるからそばにいて欲しいんだと、何度も伝えていた。  どうせその想いに陥落することは判っていたのに、どうして仁志くんに応えておかなかったの。  ──優しく、してあげなかったの。  仁志くんが今味わっているであろう苦痛を考えると、胸が潰れそうな思いになる。  本当に後悔というのは、何度思い知ろうと先には立ってくれないものだった。  すると。  ゴンゴン……と頭の上から音がして、弾かれたように顔を上げる。  鳴ったのは、明かり取りの窓。埃っぽいガラスの向こうから覗いた顔に、あっと声を上げた。 .
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