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「そ、そんなこと。されてないよ。何も……」
慌てて否定しながら、眉尻を下げる。
そんなこと、されるはずがない。
中居さんの言葉が本当であるなら、彼は──。
さっきの話を思い出し、涙が滲みそうになる。
すると、あたしの手を握る岳ちゃんの力がふっと強くなった。
「あんたが無事なら、何でもいいや。とりあえずここから出よう。話はそれから……」
足元の縄を解いて当然のように肩を抱いてきた岳ちゃんの態度に、一瞬ビクッと身体を強張らせる。
触れられた瞬間、仁志くんの顔が浮かんだからだった。
「ハル?」
「あ、あの、岳ちゃん、あたし……」
あたしの沈んだ声で岳ちゃんは何かを察したのか、眉をひそめる。
その先を言わせまいとするかのように、あたしを窓の方へ押しやった。
「……話は、後だ。外に出れば人がいるから、とりあえずハルが先に出ろ。手足の、出たら外してやるから」
「岳ちゃん……」
ぎゅっと口唇を噛みしめる。
さっき出て行った中居さんの様子からして、彼はあたしを取り返しに来た仁志くんに対して何かするつもりなんだろう。
校内の女生徒を探してこの場所を訊き出せ──というのは、何らかの時間稼ぎなのか、遊んでいるのか。
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