198人が本棚に入れています
本棚に追加
それなら、その前にここから出て仁志くんに連絡をつけないと。
そして、落ち着いてと伝えなくちゃ。
黙って頷くと、窓枠に向かって手を伸ばした。
サッシに手をかけると、岳ちゃんがひょいとあたしの下半身を抱え上げる。
そのまま上半身が窓枠から出るまで押し上げられ、通路の足元にこの明かり取りの窓があることを知った。薄暗いはずだ。
何とかそのまま床まで這い出ると、岳ちゃんは懸垂の要領で簡単に上がってきた。
「……すごいね。一発で出られちゃうんだ」
「何だよ。小説家は身体を使わないとでも?」
岳ちゃんは立ち上がって、あたしの手の戒めを解き始める。
「学生時代探偵事務所でバイトしてみたことがあってさ。そしたら探偵業は頭も大事だけど、身体が重要だと実感したわけだ」
「……へえ……」
ハラリと布が解け、数時間ぶりに手が自由になった。
解けたものの、きつく縛られていたせいで痺れ出す。
「いたた……」
痛覚に等しい痺れにを震わせると、岳ちゃんはあたしの足元を見た。
「これじゃ、歩けないな」
岳ちゃんはジャケットを脱ぎ、あたしに持たせる。
戸惑いながら受け取ると、身体がフワリと高くまで浮き上がった。
抱き上げられたことに気付いて、慌てる。
.
最初のコメントを投稿しよう!