真っ黒の淵。

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   それなら、その前にここから出て仁志くんに連絡をつけないと。  そして、落ち着いてと伝えなくちゃ。  黙って頷くと、窓枠に向かって手を伸ばした。  サッシに手をかけると、岳ちゃんがひょいとあたしの下半身を抱え上げる。  そのまま上半身が窓枠から出るまで押し上げられ、通路の足元にこの明かり取りの窓があることを知った。薄暗いはずだ。  何とかそのまま床まで這い出ると、岳ちゃんは懸垂の要領で簡単に上がってきた。 「……すごいね。一発で出られちゃうんだ」 「何だよ。小説家は身体を使わないとでも?」  岳ちゃんは立ち上がって、あたしの手の戒めを解き始める。 「学生時代探偵事務所でバイトしてみたことがあってさ。そしたら探偵業は頭も大事だけど、身体が重要だと実感したわけだ」 「……へえ……」  ハラリと布が解け、数時間ぶりに手が自由になった。  解けたものの、きつく縛られていたせいで痺れ出す。 「いたた……」  痛覚に等しい痺れにを震わせると、岳ちゃんはあたしの足元を見た。 「これじゃ、歩けないな」  岳ちゃんはジャケットを脱ぎ、あたしに持たせる。  戸惑いながら受け取ると、身体がフワリと高くまで浮き上がった。  抱き上げられたことに気付いて、慌てる。 .
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