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「それ、足元までかけて。手錠で目立つよりマシだろ」
「でも、あの」
「……どうせ、早くあの男と連絡取りたいんだろ? ほら」
拗ねたように言い捨てた岳ちゃんの顔を見て、何も言えなくなってしまった。
言われた通り手錠が隠れるようにジャケットで足元を覆う。
イルカショーが行われるプールへの通路は、時間外だからかまったくと言っていい程人気がなかった。
変に慌てると俺達が怪しまれるから、と岳ちゃんはすたすたと普通に歩く。
その顔を見上げ、縮こまりながらふと疑問を口にした。
「……そういえば、中居……さん? が私を担いでここへ来たって……」
「ああ。知り合いに中居弘毅が何かおかしな動きをしないか見ててくれって、頼んでたんだ」
「知り合い?」
「……さっき、言っただろ。探偵事務所でバイトしてたって。元バイトの特権」
「そっか……」
岳ちゃんは困ったように、クッと声を抑えて笑った。
「それにしても……見つけられて、よかった。ハルの姿見つけた時、心臓止まるかと思った……」
やがて通路を抜け、暗く真っ青な空間に出る。
見るからにひんやりとしてくる程の一面の青に、思わず目を細めた。
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