真っ黒の淵。

26/28
前へ
/28ページ
次へ
  「別に、自虐趣味はないけど。今まで、男のいる女と恋愛を始めることの方が多かったから、気にしてなかったし。ハルもそのうちのひとりかな……なんて思ったりもしたんだけど」 「……」 「けど、あんたをわりと本気でいいなって思ってから、気付いた。あんたは、誰のものにもならない女だ、って」 「……なんで……」 「ひとりを除いて、な」 「……」  やたら核心をついてくるような岳ちゃんの言葉に、きゅっと下唇を軽く噛んだ。 「なんて言うか、あの坂田って男といる時の空気が、明らかに違う。他の誰とも……もちろん、俺とも」 「そんなこと言われたって、判んないよ……」 「じゃあ、前に言ったみたいに──試してみる? 俺と」 「……! や……っ!」  不意にそのまま口唇を落としてきそうな岳ちゃんの気配を察知し、即座に顔を背けた上で彼の顎を手で押し返す。 「……ほらな」  少し情けない声を漏らし、岳ちゃんはくぐもった笑いを漏らした。 「この間は、避けなかったじゃん」 「し、して欲しくて避けなかったんじゃ……!」 「判ってるって。逃げられないように必死だったし、こっちも」  はあ……と肩で息をつきながら、岳ちゃんは非常口案内を見つけ、行き先を変える。 「……俺が中居弘毅を追っかけてる間に、まとまったんだろ。あの男と」 「……」  即答できず、またぎゅっと口唇を結んだ。 .
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

198人が本棚に入れています
本棚に追加