真っ黒の淵。

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   手錠を縛るロープを何とか解けないかとじっと目を凝らしてみるものの、薄暗くて確認しづらい上、アウトドアのロープワークに使う縛り方をしているらしく、どこから解いていけばいいのか、素人のあたしには判らなかった。  解いたところで、あたしをここに連れてきて閉じ込めた人間が現れたら……と考えると、恐ろしい。  まだ続く頭痛は、ハンカチに染み込んでいた薬品を嗅がされたせいだろうか。  脈打つごとにずくん……と重く響く頭痛は、明らかに異質な痛みだった。  思わず滲んだ涙を手で拭う。一体、誰がこんな──。  壁に背中をぺたりとつけ、じわじわ這い上がってくる恐ろしさにそのまま泣き出した。  確かに昨日はあんな目に遭ったけど、昨夜はずっと仁志くんの腕の中にいた。  あんなに安心できる場所は他にはないって、今なら確信が持てる。  こんなことなら、つまらない意地をいつまでも張るんじゃなかった。  せめて、愛してる──と伝えておけばよかった。  思考回路がそこまで追い詰められてから、ふと我に返る。  殺される、と決まったわけじゃない。  とにかく、全力でこの状況を理解しなくちゃ……。  ぼろぼろこぼれる涙を両手の甲で拭って、自分の中の恐怖に負けないように気持ちを奮い立たせながら、目を凝らしてもう一度辺りを見回す。 .
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