僕というものをさだめられた日。-Refrain-

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   俺の袖口を掴んだまま、その顔が真っ赤になった。  そうして、意を決したように小さな彼女はキッと顔を上げ、 「……!」  全身で背伸びをして、俺の額にさくらんぼみたいな口唇を押し付けた。  こんなこと初めてされたものだから、思わず硬直してしまった。  でも、離れていく陽香の赤い口唇を見ながら、俺は自分のそれを重ねてしまいたい衝動にかられた。  幼稚園の時とか、ちょっとマセた友達同士がチュッてしてるのを見たことがあるけど。  そういう、微笑ましくて数にも入らないような可愛らしいのじゃなくて。  この、胸のドキドキを移して分け合ってしまいたいような。  口唇と口唇を重ねたら、頭がとろとろに溶けてしまいそうな気がして。  それがとっても気持ちのいいもののような気がして──。  息を呑んだ瞬間、陽香は頬を染めたままニコッと笑った。 「ありがとう!」  そう言って、陽香はぱたぱたと走り出して俺から離れていった。  少し離れたところからもう一度振り返って、陽香はぶんぶんと手を振る。 「また、また今度、あの公園でね!」  恥ずかしそうにしながらも一生懸命にそう言う彼女を、俺は呆然と立ち尽くして見ているしかなかった。  それくらい、今されたことが衝撃的だった。  だんだん小さくなっていくピンクのポンチョを見ながら、俺は考えていた。  今の「ありがとう」は、一体何の“ありがとう”だったのかと。 .
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