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──でも、すぐに判った。
約束を破って「ごめんね」。
それに対して、“いいんだよ”っていう意味の「仕方ないね」。
……許してくれて“ありがとう”なんだ、今のは。
そこにおでこへのキスがついてきた……ということは、俺に許されたことがよっぽど嬉しかったんだろうな。
約束を破ってしまったことに対して、陽香の中の罪悪感の大きさが手に取るように判ってしまった。
さっき、最初に顔を見た時つまらない意地を張って、知らん顔してしまったことを心底悔やんだ。
あの可愛い笑顔をもう一度見たくてたまらなかったくせに。
一瞬でもあの顔を曇らせてしまった自分は、つまらない子どもだな、と思った。
陽香は、また、って言った。
また……また、次も会える、ってことで。
それを考えたら、今までのどんな楽しみより楽しいことを見つけたような気がした。
やがて陽香の姿は見えなくなって、その場にひとり残った俺はどんどん暮れていく陽を見ながら、初めて明日が来るのが楽しみだと思えた。
伸びていく影は、やがて夜の闇と同化していくけれど。
それを越えたら明日がちゃんと来るんだ、ってことはもう知っている。
陽香は、俺のおひさまみたいだ、と思った。
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