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この状況を不思議に思いながらも、俺は足を進めた。
雨音を逃がしてしまったら、取り返しの付かないことになる……そんな気がして。
すると、俺の脇を小さな影が素早く走り抜けていった。
こんな真っ暗闇の中、何が……とその影を目で追って、俺は驚いた。
ふわりとやわらかそうな、少しだけ色素の薄い髪。
手足はスラリと細いものの、そう背の高くない子ども。
その子は、チラッと俺を振り返り──やがてすぐに関心を失くしたようにタタタ……と更に加速していった。
あれは……あの少し冷めた目には、覚えがある。
「……俺じゃないのか」
思わず立ち止まり、俺の代わりに雨音を追いかけていった俺──いや、小さな彼の背を呆然と見つめる。
すると小さな彼が来るのを待っていたように、暗闇はぽっかりと穴を開け、灰色の景色を映し出した。
灰色に見えるのは、雨のせいだ。
その不安を煽るような景色に向かい、傘も持たずに小さな彼は駆けて行く。
その背に、8歳の子どもが感じるには余りある怒りがのしかかっているのが見えた気がした。
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