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どうして? どうして俺は、あんなに怒っていたんだろう。
そして、そんなに怒っていたことを、どうして忘れてしまっているんだろう──。
『坂田くん。駄目でしょう。先生も見ていたわ。あなた、そんなことしなくてもいい子でしょう。どうして、あんなことしたの』
困った顔をしながら、刺すような声で先生は言う。
俺は、子ども心に呆れて返す言葉がなかった。
発端は、いつもクラスの隅でじっと太股の間に両手を挟み、もじもじして自分の主張など何一つできなさそうなヤツが蚊の鳴くような声で訴えた一言だった。
『……先生。今の漢字テスト、坂田くんが、カンニングしてました。ぼ、ぼくの答案を見てました……』
頭に来すぎて、もう名前も忘れてしまったそいつの発言を、馬鹿じゃないのかと思った。
答案を全部埋めるのにとてつもなく時間がかかる子がいる。
俺みたいに問題を見た瞬間さっさと解答欄を埋めてしまう子どもには、退屈極まりない時間だった。
俺はもうとっくの昔に答えを書き、答案を裏返しにしてそこにラクガキまでしていた。
ラクガキをしてもまだ時間が来ないので、俺と同じように早く答案を裏返しにしてしまった隣の席の子と、手先だけで軽く取っ組み合いをしていた。
俺がそいつの机の上を見たのは、その合間のほんの一瞬のことだった。
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