僕というものをさだめられた日。-Refrain-

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   解答欄はまだ真っ白で、ひとつも埋めることのできないそいつは、脂汗をかいていた。  別に漢字テストで点を取れなくても死にやしないと今なら判るけど、当時の俺達には生きるか死ぬかの問題に等しかった。  真っ白の解答欄を見て、こいつやばいな……と思った瞬間、俺はふと思い出した。  名前を、書いてなかった。  ハッとして、俺は答案の表を確認し──やっぱり名前がなかったから、それだけ書いてまた裏返した。  消しゴムのひとつもいらない作業だ。  それなのに、全員の答案が回収されてから、そいつは嘘の告発をしたのだった。  そこまではよかった。俺が自分の理由を話せば済む話だと、そう思ったから。  だけど、俺が絶望したのは先生の対応だった。 『先生も見ていたわ。あなた、そんなことしなくてもいい子でしょう』  ──この、嘘つき女。あんたが、何を見てたんだよ。  俺達が漢字テストを受けている間、教壇の下でポケベルを見てたの、俺は知ってるんだ。  先生にとって、カンニングが真実かどうかはどうでもよかったのだろう。  クラスで気の弱い生徒が勇気を出していつも優秀な生徒を告発したというドラマチックな展開。これがあの女教師のツボだったのかも知れない。 .
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