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固まったまま動けなくなっていた私を仁は鼻でせせら笑い、横を通り過ぎると私を転ばせた男の前に行った。
刹那。
ーーパンッ!!
渇いた音が廊下に響いた。
それに思わず、私は顔を上げる。
見たのは、片頬を赤くし口の端を切って流血する男と、そいつを思いっきり睨めつける、仁の姿だった。
状況を理解できず、私は呆然と見ていることしかできなかった。
「な……なにしやがる!」
正気に戻った男が仁の胸ぐらを掴もうとして、けれど仁はそれを許さず男の手首をキツく掴み捻り上げた。
「なにしやがる、だと?
それは、こっちのセリフだ」
苛立ちを露わにした、地を這う低い声。
背を向けている仁の表情は見えないけれど。
何を怒っているのだろう?
こんなこと、自分が私にしていることに比べたらなんてことないじゃないか。
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