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「…先生、今日は突然来ちゃってごめんね。…どうしても会って話したくて…」
「うん…わかってる。俺も明日連絡しようかと思ってた。まさか、今日ロッカーを開けるとは、誤算だった」
先生は雨の夜空を見上げたまま、クスッと笑った。
「手紙にも書いたけど…私先生と一緒にいる時間凄く幸せだった。
なんでもっと早く、婚約する前にこうならなかったんだろう…そう、何度も思った。私、先生にもっと早く出会いたかった…」
零れそうになる涙を堪え、膝を抱えて俯く私。
雨樋を伝う雨がベランダの端に流れ落ち、ピチャピチャと音を立て跳ねている。
聞こえるのは、水音だけ…
「唯…」
先生は口をつぐみ、私の肩をそっと抱き寄せる。
「…俺も…何度もそう思ったよ」
先生は心苦しそうに言葉を落とし、私の髪にそっとキスをした。
先生の肩に額を乗せて、目を閉じる。
閉じようとも、目尻を伝って溢れるようにポタポタと流れ落ちる涙。
怯える様に、小さく震える肩。
「…唯?」
先生は、そっと体を離し私の顔を覗き込もうとする。
「待って!このままでいて。このままで、私の話を聞いて…」
今、先生と目を合わせたら、泣き崩れ何も話せなくなってしまう。
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