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先生の結婚から1ヶ月が経った。
以前のように夜メールをしたり、電話をすることはできない。
私は結婚の準備で更に多忙となり、ほとんど直人の家から職場に通うようになっていた。
寮に帰らないもう一つの理由…
それは、先生が新婚生活を送るあのマンションの近くに住んでいるのが、どうしようもなく苦しかった。
先生との時間は、人目を気にしながらの病棟での会話と、先生が当直の休憩時間にくれる短い電話。
そして、先生が帰宅する直前にしてくれる、時々のメールだけになっていた。
「ねぇ、どうして先生は結婚指輪しないの?」
消灯時間を過ぎ病棟が静まりかえった中で、先輩ナースの高木さんの声がステーションに響いた。
先生は数枚のレントゲン写真を並べる手を止め、私はカルテ記載をする手を止めた。
「指輪は内視鏡やる時に邪魔になるんで…」
先生は私を気遣ってか、言葉を濁し愛想笑いを浮かべた。
「でも、消化器ドクターみんな指輪してるのに。最初から指輪無しだなんて、新婚さんらしくないじゃないの」
当然の事ながら高木さんはさらりと言って、次の先生の言葉を待っている。
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