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一瞬にして消え去った胸の高鳴り。
携帯を持つ手の力が抜け、目の前が暗くなっていくのを感じた。
「…それって…もう…この想いも捨てろってこと?…迷惑なの?先生を好きでいる事さえ駄目なの?」
茫然自失となり、震える唇が途切れ途切れに言葉を並べた。
『唯、俺が今から言うことを冷静に聞いて欲しいんだ』
私を宥めるような、落ち着きのある彼の声。
「…うん」
私は携帯を持つ手に力を入れ、コクンと小さく頷いた。
『唯を忘れるとか、関係を切るとか、そう言う問題じゃないんだ。俺の中には唯がいる。
でも、俺にはさゆりという妻がいる。さゆりを大切にしたいと思う自分と、唯を大切に想っていたいという自分…二人の俺がいるんだ。
それはさゆりに対してとても残酷で、許されない事。それは分かってる…。
でも、人を想う気持ちはどうしようも出来ない。
自分で消そうと思っても無理なんだ。…それが、人を【想う】ってことだと思う…』
人を想う気持ちはどうしようも出来ない…
自分で消そうと思っても無理…
恋の病―――…初めから食してはいけなかった禁断の果実…。
「うん…」
目頭が熱くなり、一粒の涙が頬を伝う。
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