結婚前夜

17/26
255人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
一瞬にして消え去った胸の高鳴り。   携帯を持つ手の力が抜け、目の前が暗くなっていくのを感じた。    「…それって…もう…この想いも捨てろってこと?…迷惑なの?先生を好きでいる事さえ駄目なの?」     茫然自失となり、震える唇が途切れ途切れに言葉を並べた。 『唯、俺が今から言うことを冷静に聞いて欲しいんだ』   私を宥めるような、落ち着きのある彼の声。     「…うん」 私は携帯を持つ手に力を入れ、コクンと小さく頷いた。       『唯を忘れるとか、関係を切るとか、そう言う問題じゃないんだ。俺の中には唯がいる。 でも、俺にはさゆりという妻がいる。さゆりを大切にしたいと思う自分と、唯を大切に想っていたいという自分…二人の俺がいるんだ。 それはさゆりに対してとても残酷で、許されない事。それは分かってる…。 でも、人を想う気持ちはどうしようも出来ない。 自分で消そうと思っても無理なんだ。…それが、人を【想う】ってことだと思う…』     人を想う気持ちはどうしようも出来ない… 自分で消そうと思っても無理… 恋の病―――…初めから食してはいけなかった禁断の果実…。 「うん…」   目頭が熱くなり、一粒の涙が頬を伝う。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!