小指の微熱

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「あ、澤原さん!悪いけど今日の研修会ちょっと顔出して、資料だけ貰ってきてくれない?」     主任さんが、夕方のおしぼりを配る私に声をかけた。     「いいですよ。私カルテ記録は終わりましたから」     私はおしぼりをワゴンに並べながら笑顔で答えた。 今日は夕方から製薬会社が主催する、新薬の説明会がある。   薬の指示を出すドクターが主に参加する会だが、ナースも各病棟から一名が参加し、パンフレット等の資料を貰いに行くことになっていた。 私はおしぼりを配り終わると、急いで説明会が行われる会議室へと向かった。     会議室に入ると、製薬会社によるプロジェクターを使った説明が始まっていた。     辺りは真っ暗。 すでに椅子も空いておらず、仕方なく私は一番後ろの壁にもたれ掛かった。   なんか…説明分かりにくいし…   そもそも薬の成分の難しい説明聞いても…薬剤師じゃあるまいしなぁ…。     ナースが薬を扱う際に重要視するのは、適応疾患、副作用、使用方法。     剤型がどうの成分がどうの難しい話は、はっきり言って右から左へ抜けていく。   プロジェクターが映し出す映像を、私は何となく眺めていた。     「看護婦さん、隣いいですか?」  
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