小指の微熱

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「…ごめん、困らせちゃったかな…」     先生は不安そうな表情を私に向ける。     「…違う…困るとかじゃなくて…」     …嬉しいの。 嬉しいけど… この愛しさが切なくて、苦しい…。 私はうつ向き首を横に振る。     「説明会、終わっちゃうね。もう少しだけ…このままでいよう」     先生の指は、私を強く握り返した。 周囲の音は何も聞こえない…   感じるのは、自分の鼓動と先生の体温。     頭がくらくらする…     何も考えられない…考えたくない。       お願い…時間よ止まって。     今だけだから…もう少しだけだから…。     司会者の合図で一瞬にして別世界となった。     蛍光灯の光が、眩しく視界を照らした。       二人は繋いだ指を同時に離した。       そう…これが現実なんだ…     私達は部屋を出る人波に紛れ、別々の場所へ戻って行く。
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