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「関係があったのかなかったのか…分かんない。だって問い詰めてないもん」
私はビールを2口飲み、しおらしく答えた。
「マジで!?何でそんな重要な事をはっきりさせないのっ!」
綾子は大きく目を見開いて、声を荒げた。
「何でって…聞くのが怖いから」
私はシュンとして、弱々しく声を落とす。
「怖いって…あんたそれでいいの?本当は気になってるんでしょ?」
「そりゃ気になるけど…そんなの私が問い詰められる訳ないじゃん。知った時は血が上って直人を責めたけど…その後、私すごく怖くなったんだ。
頭を下げる直人が自分の姿に重なって…。
頭を下げるべき私が頭を下げられてる…胸がギリギリと掻きむしられる気がした。私、直人の誠実さが怖いんだ…」
私は唇を噛み、眉間に深いしわを寄せる綾子を見つめた。
「自分に弱味があると、相手の弱味には触れられない…か」
綾子が独り言を言うように呟いて、深いため息を漏らした。
「それに…知りたくない事だってあるでしょ?私と先生の事がなかったとしても。私は、真実を知りたくないのかも知れない」
「…何で?」
「たぶん…直人の性格からして、何か関係があったとしたら、問い詰めたら素直に罪を認めちゃいそうなんだもん。じゃあ、白状させてどうするの?
…自分が苦しいだけでしょ?認められてしまったら、その後どうすればいいのか分かんない。『こんな真実なら知りたくなかった!』って、そう思う気がするの…」
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