裏切り

15/18
前へ
/29ページ
次へ
「関係があったのかなかったのか…分かんない。だって問い詰めてないもん」     私はビールを2口飲み、しおらしく答えた。     「マジで!?何でそんな重要な事をはっきりさせないのっ!」   綾子は大きく目を見開いて、声を荒げた。     「何でって…聞くのが怖いから」   私はシュンとして、弱々しく声を落とす。       「怖いって…あんたそれでいいの?本当は気になってるんでしょ?」     「そりゃ気になるけど…そんなの私が問い詰められる訳ないじゃん。知った時は血が上って直人を責めたけど…その後、私すごく怖くなったんだ。 頭を下げる直人が自分の姿に重なって…。 頭を下げるべき私が頭を下げられてる…胸がギリギリと掻きむしられる気がした。私、直人の誠実さが怖いんだ…」     私は唇を噛み、眉間に深いしわを寄せる綾子を見つめた。 「自分に弱味があると、相手の弱味には触れられない…か」    綾子が独り言を言うように呟いて、深いため息を漏らした。     「それに…知りたくない事だってあるでしょ?私と先生の事がなかったとしても。私は、真実を知りたくないのかも知れない」     「…何で?」     「たぶん…直人の性格からして、何か関係があったとしたら、問い詰めたら素直に罪を認めちゃいそうなんだもん。じゃあ、白状させてどうするの? …自分が苦しいだけでしょ?認められてしまったら、その後どうすればいいのか分かんない。『こんな真実なら知りたくなかった!』って、そう思う気がするの…」
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

252人が本棚に入れています
本棚に追加