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「離婚…」
その二文字を口にして、一瞬のうちに私の体が固まった。
直人と別れる?
全て清算して真っ新な自分になって、そして…
さゆりさんから先生を奪う?
とてつもない恐怖感に襲われ、目の前がぐらりと揺れた。
「綾子の口からそんな言葉が出るなんて…」
親友の顔をマジマジと見つめ、息を飲んだ。
「どうして?不倫経験者の私から、そんな大それた発言が飛び出すなんて思ってもみなかった?」
「だって綾子は…」
「あんたと私は違うから…。私は最初から最後まで日陰の女だった。でも、唯は違うでしょ?」
綾子は穏やかな口調でそう言って、口の端を引上げ綺麗に笑った。
「……」
複雑な気持ちになって、視線を落としたまま返す言葉を探す私。
そんな私の表情を見て綾子が、
「是非見たいな~。院内一の好青年と言われるドクターと、表向きは真面目子ちゃんナースの逃亡生活。案外、刺激的で燃えちゃうかもよ?」
甘えた声でそう言って、両手を頬に当て悩まし気に腰をくねらせる。
「…綾子、笑えないから」
おふざけ女を横目で見て、私は大きなため息をついた。
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