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「消灯時間になったので電気切りますよ~」
「はいはぁ~い。唯ちゃんおやすみ」
午後9時――
消灯時間になると、私達は端の病室から順番に灯りを消して回る。
「三浦さん!消灯してから間食しないで下さいよ!就寝前の血糖測定終わってからお菓子食べてる事、知ってるんだから!」
「ええー!?バレてたの?唯ちゃん、頼むから先生には言わないでよ~」
糖尿病がある三浦さんが両手を合わせ「唯ちゃん許して!」とヘラヘラ笑いながら私に頭を下げた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと主治医の水島先生には報告してありますから」
私は満面の笑みを浮かべて、三浦さんが戸棚に隠した栗羊羹を取り上げた。
自己管理が出来ずに入退院を繰り返す糖尿病患者の半数は、こうして消灯後に隠れて間食をする者が多い。
しかも、羊羹やらアンパンなど血糖が跳ね上がるものばかりを選んで隠している。
隠しては見つかり…
隠しては見つかり…まさにいたちごっこ。
食に対する人間の欲望はこれ程のものかと、あまりの執念深さに笑えてしまう。
食べたい物も食べることが許されず…
可哀想だとは思うが、入院生活をしている以上見逃すわけにはいかず。
私達は涙をのんで容赦なく取り上げるのだ。
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