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「では、お先に失礼します」
私は休憩室の電気を切り、準夜スタッフに声をかけた。
「遅くまでお疲れさま!」
私に言葉を返し、高木さんがナースコールを止めてステーションを出ていった。
先ほどから止むことなく廊下に響き渡るコール音。
この調子だとまだまだ続くな、このバタバタ…。
疲労感MAXのため息を落とし、高木さんの後ろ姿を見送りながら私は病棟を後にした。
職員出入口の扉を開けると、生温かい風が私の頬に触れた。
そうか…
もう6月も終わりなんだ。
しみじみとして空を仰ぐ。
視界に広がる夜空には、満月に掠れた雲が掛かりぼんやりと光を放っている。
あれから、1年が経つんだ…
遠くに見える独身寮に視線を向けた。
1年前、私はあの寮のベランダでいつも同じ月を眺めていた。
先生との別れに泣き崩れ、ボロボロになっていたあの頃…。
そして…最後の夜を過ごしたあの日…。
先生…
もうすぐ1年が経つんだよ…。
夜風に吹かれ、サワサワと揺れる木々達の囁きにそっと目を閉じた。
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