霞の月

2/7
253人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「では、お先に失礼します」   私は休憩室の電気を切り、準夜スタッフに声をかけた。     「遅くまでお疲れさま!」   私に言葉を返し、高木さんがナースコールを止めてステーションを出ていった。 先ほどから止むことなく廊下に響き渡るコール音。 この調子だとまだまだ続くな、このバタバタ…。     疲労感MAXのため息を落とし、高木さんの後ろ姿を見送りながら私は病棟を後にした。     職員出入口の扉を開けると、生温かい風が私の頬に触れた。   そうか… もう6月も終わりなんだ。   しみじみとして空を仰ぐ。 視界に広がる夜空には、満月に掠れた雲が掛かりぼんやりと光を放っている。     あれから、1年が経つんだ…     遠くに見える独身寮に視線を向けた。     1年前、私はあの寮のベランダでいつも同じ月を眺めていた。     先生との別れに泣き崩れ、ボロボロになっていたあの頃…。       そして…最後の夜を過ごしたあの日…。       先生…       もうすぐ1年が経つんだよ…。     夜風に吹かれ、サワサワと揺れる木々達の囁きにそっと目を閉じた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!