雨音

6/27
前へ
/33ページ
次へ
こんな所にいつまでもいられない…   だからと言って、帰りたくない。     私はシートの上で丸めた体を起こし、助手席の鞄から携帯を取り出した。     ごめん…綾子。 こんな時間に…     でも、頼れるの、あんたしかいないんだ…。   耳に流れる呼び出し音。   『…もしもし…唯…?どうした?こんな時間に…』   眠りから無理やり引っ張り出された、綾子の声。     「ごめん…綾子。起こしちゃって。私、どうすればいいかわかんなくなっちゃって…頼るの綾子しかいなくて…ごめん…ごめんね…」      親友の声を聞き再び涙が溢れだす。     『ちょ、ちょっと!?あんたどうしたのっ!…もしかして、直人と何かあったの?』   私の異変で眠気が一気に吹っ飛んだのであろう。綾子は驚きのあまり声を裏返した。      「…直人が…まどかと寝たって…」      少し躊躇って、小さな声を落とす。 『ええっ!?ちょっ、待った!そんな大切な話を…唯、今からうちにおいで』      「おいでって…今…翔ちゃんいるの?」     『翔太?いるけど、そんなの全然気にしなくていいから。気をつけておいでよ。考え事して車突っ込んだりしないでよっ』     「うん。ありがと…」   親友の声を聞いて安心したのか、私の口もとから少しだけ静かな笑みが零れた。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

254人が本棚に入れています
本棚に追加