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「相変わらず翔ちゃんは優しいね。あんなに綾子を想い続けてくれる人、二度と出会えないよ。…大切にしなきゃね」
私は翔ちゃんの部屋を見つめたままそう言って、新品の白いソファーに腰を下ろした。
「うん…そうだね。…私、死ぬまで翔太には足向けて寝られないからな。…あ、唯の好きなレモンティー入れてくるから、ちょっと待ってて」
綾子は照れ笑いを隠すかの様に、そそくさとキッチンへと姿を消した。
私はソファーにもたれ、天井を仰いだ。
目を閉じると、静かな空間に微かな換気扇の音と、綾子が扱うカップのカチャカチャという音だけが響く。
この当たり前の静けさ…
今は、こんなに懐かしく思える。
そして、こんなにも羨ましく思う…。
綾子と翔ちゃん…二人の歩んで来た道のりも決して平坦ではなかった。
綾子も長年、医者との許されぬ恋で苦しみ続けた。
二股を掛けられ、不倫関係にまで引きずり込まれ、終わりを告げた悲しい恋。
それを陰で支えて、大きな愛情で綾子を包んでくれたのが翔ちゃんだ。
二人は苦しみを乗り越え、今こうして側に居る。
ここには苦しみを乗り越えた、揺るがない愛情と信頼と安堵が存在する。
愛情…信頼…安堵…
きっと、これが本当の意味の結婚なんだ…。
―――瞼の奥が熱くなる。
天井を仰いだまま、深いため息をついた。
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