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「綾子はまたセクシーな格好で。…それも相変わらずだな。久しぶりに会ったんだ。今夜は二人で飲みにでも行く?」
結城先生は綾子を見つめながらそう言って、目配せしながら片眉を上げた。
「結構です。奥様に申し訳ないですから。それに、奥様と鉢合わせなんてもう懲り懲りなんで」
綾子は平静を取り戻したかのように、いつもの余裕の笑みを見せた。
「先生。綾子もうすぐ結婚するんですよ」
私は綾子と先生の間に割り込む様にして、会話を遮った。
その言葉で、一瞬先生の口もとがピクリと動いたのが分かった。
「へぇ…そうなんだ。良かったな、綾子。おめでとう、幸せになれよ」
再び向けられる笑み。
「ありがとうございます。既に幸せですから。…今以上に、もっと幸せになりますから、御心配なく」
綾子は笑顔を放ちながらも毅然とした姿でそう言って、長身の彼と張り合うように背筋を伸ばした。
「そうか、なら良かった。…じゃあ、俺まだ挨拶に回らなきゃいけないから。元気でな」
軽く手を上げ、結城先生は人混みに消えた。
「綾子…大丈夫?」
私は不安になって、黙って再びステーキを食べ始める綾子の顔を覗き込んだ。
「何が?もう関係ないし。二度と翔太を悲しませる事はしない…絶対に」
「そうだよね、ごめん。変な言い方して」
「何で唯が暗い顔してんだよ~!お酒が不味くなっちゃったじゃないの。飲み直し飲み直し!」
綾子は新しいワイングラスを手に取り、笑い飛ばした。
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