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「…この曲、唯は覚えてるの?俺と唯が初めて二人で飲みに行った帰り道、唯が窓の外の雪を見ながら「好きだ」って言った曲…」
「うん…覚えてるよ」
「実はあの時…雪を眺める唯を見た時から、俺は唯に惹かれる事を知ってたのかも知れない。はしゃぎながら雪を手に取る唯を見て、正直凄く可愛く思えた。
会う度にその思いはどんどん大きくなって…。それでも俺はさゆりがいる立場上、ずっと気持ちに気づかないふりをしてたんだ」
先生はまるであの時の夜空を眺める様に、星が瞬く遠くの空を見て静かな声を落とす。
「……」
私は口を噤み、フロントガラス越しに遠くを見る先生の言葉を待つ。
「そして気持ちに抑えが効かなくなって…唯と結ばれて…離れ離れになって…。その時に気づいたんだ。俺にとって、この曲が全ての始まりだったんだって」
先生は眩しそうに夜空を見上げたまま、ゆっくりとそう言った。
先生…
あなたも同じ気持ちだったの?
私達の、はじまりの曲…。
先生を見つめる視界が、涙で次第に霞んでいくのを感じた。
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