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ドキッとして、触れられた右手の小指がピクッと跳ねた。
なっ、…ちょっと先生の手に触れただけで、何でこんなにドキドキしてんだ私は!ホント…今更。
何度も抱き合ったはずなのに、時の流れと押し込めた想いが、二人の間に埋められない距離を作っていた。
彼の手のひらの温もりが懐かしくも新鮮で、初めて先生の熱に触れた時のように…いや、それ以上にドキドキする。
「俺さぁ…」
「えっ!?」
「今まで唯と交換したり、紹介し合った曲をまとめてCDに入れてるんだよね。名付けて、唯との思いでの曲コレクション」
先生は、私の上に重ねていた手のひらをハンドルに戻し声を弾ませた。
微かに残された先生の感触。
「名付けてって…そのまんまじゃん」
ハンドルを握る手を名残惜しそうに見て、この過剰なトキメキを鎮めようと慌てて笑い飛ばした。
「うん、そのまんま」
正面を向く先生は私の動揺を知る由も無く、片手でダッシュボードの中から車検証のファイルを取り出した。
ん?…なんで、車検証?
不思議そうに首を傾げる私に、先生がファイルを手渡す。
「ごめん、その中にある封筒出してくれる?触ってみて硬いヤツ」
「…うん」
私は言われた通り、数冊の車関係の冊子の隙間から封筒を探した。
「あった。これだよね?」
私は一枚の封筒を取り出し、指で中の硬い物を確認した。
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