はじまりの場所

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「先生…この曲…」     最初に流れてきたのはドリカムの【悲しいkiss】   初めて先生とデートした時、車の中で流れていた曲。      あの頃はまだ、二人が恋に落ちるなんて考えてもいなかった…。     忘年会で憧れの先生に近づけた事にただ浮かれ、「他のファンの子が知ったら私ひがまれちゃうなぁ~」優越感に浸って、ただはしゃいでいたあの頃。     こんな苦しみが待っているとも知らず、好奇心に誘われるまま足を踏み入れてしまった浅はかな私。       初めて飲みに行った帰り道、静寂な夜空からはヒラヒラと雪が舞い降りていた。 酔って上機嫌の私は車の窓から手を出し、手のひらで溶ける雪の冷たさに心地良さを感じていた。     その時に聞こえて来たのが、この曲だった。     夜空は真っ白な雪で微かな光に包まれていた。     「私、この曲好きなんだぁ~」   舞い散る小さな光を眺め、無邪気に私が言った。     「そうなんだ。でもこの曲の歌詞…悲しいよね。唯ちゃんは切ない曲が好きなんだね」     手のひらで雪と戯れる私を見て、先生は微笑んでいた。
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