276人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生…私、行きたい所が分かった…」
下を向き、涙をそっと指で拭いた。
「…いいよ。どこでも。どこに行きたいの?」
先生は視線を私に移し、優しく微笑んだ。
「先生…あの港に連れていって。二人のはじまりの場所に…」
「二人のはじまりの場所…名港トリトン。よしっ、じゃあ名古屋港までドライブだ」
私に向けていた柔らかな視線を前方へ戻し、ハンドルを握る手に力を入れた。
二人のはじまりの場所…
あの夜、二人がはじめて結ばれた夜…
二人肩を寄せ合い、海に散りばめられた宝石達を眺めた場所。
初めて口づけを交わした、あの名港トリトン…。
私はどうしてもあの景色が見たかった。
また…
先生と二人で―――。
二人を乗せた車は港に向かい走り出した。
あの頃とは違う―――
新たな答えを見つけるために。
最初のコメントを投稿しよう!