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開けられた窓から聞こえるのは、水面の揺れ動く微かな音と、通り過ぎる車の音。
そしてボリュームの下げられた車内のBGM。
「ここに来たからには、やっぱこの曲でしょ!」
煙草を片手に先生が選択したのは【二人のアカボシ】
「私ね、先生からこのCD貰って、聴く度にいつもこの景色を思い出してた。二人で見たこの景色が忘れられなくて…何度も涙が溢れて。この歌詞みたいに『私を遠くに連れ去ってよ!』…何度もそう思った」
思い出の美しい景色と、想いを乗せるBGMに背中を押され、我慢していた感情が一気に溢れ出す。
「唯…」
先生は私を見つめ、静かに煙草の火を消した。
「俺…唯に話しておかなきゃいけない事があるんだ。さっきの綾さんの話だけど…唯が気づいてる様に、俺…全部知ってるんだ。旦那さんと昔の彼女の事も唯が家を出てる事も…。みんな俺が無理言って綾さんから聞いたんだ」
先生は悲痛な表情で私を真っ直ぐに見つめた。
「全部って…」
…えっ?
何を、どこまで…
先生が…知ってた?
【全部】
…その言葉に動揺し私は言葉を失った。
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