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夜更けと共に、窓に映る街の灯りは次第に消えていく。
私はカーテンを少しだけ開け、賑やかな時間に終わりを告げ、静寂の時を迎えようとする街並みを静かに眺めていた。
「あまりいい部屋とれなかったから…もう少し上の階だったら、きっと夜景が綺麗に見えたのにね」
石鹸の香りとバスローブに包まれた先生が、私の肩越しからそっと呟いた。
「週末だから…。部屋が空いてただけでも運がいいよ」
【運がいい】
こんな時に、なんて不謹慎な言葉なのだろう…
酷い女…
自分に憎悪さえ感じる。
「そうだね。そう言えば、唯とラブホ以外のホテルに来たの初めてだよね」
彼の柔らかな笑みが唯一救いの手となり、罪悪感と嫌悪感に満ちた私の心を溶かしていく。
「うん。私、旅行以外でこういう部屋に来たの初めて」
ラブホテルよりも広く、部屋の中央にはセミダブルのベッドが二つ並んでいる。
ウォルナットのテーブルと、深く腰掛けられるアンティーク調の椅子が2脚。大きなカウンターに取り付けられた化粧台。
港から少し離れたシティーホテルの一室は、白と茶色で統一された清楚な雰囲気を醸し出している。
ラブホみたいに『いかにも』って感じより…
こっちのがやましくないよね?
…って、私ってなんて往生際が悪いの?
ここまで来ても尚、少しでも罪の意識から逃れようとする自分が恥ずかしくなった。
「唯…怖い?…怖いよね」
未だ揺れ動く私の心を見透かすように、先生は私の手をとり静かな声を落とした。
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