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俺は、ただ手を握りしめていた。
会長には申し訳ないが、俺は泉をライバルだなんて思えない。
そう捉えてしまう俺の心は、荒んでいるんだろうか。
黙りこむ俺が気になったのか、会長が再び口を開く。
「今戦ってるお前たちに、ひとつ言葉を贈ろうか」
そう言って、軽く天を仰いだ。
「彼を知り己を知れば、百戦してあやうからず」
そして視線を俺たちに戻す。
「有名な言葉だね。だが、いざ実行となるとなかなか難しい。事前に調査してデータを集めるのはいいが、忘れてはならないのは『己を知る』ほうだよ。今自分たちはどうあるのか、自分たちがしなければならないことは何なのか、よく見極めていきなさい。まぁ、さっきの悠哉と片桐の返事を聞いて、立ち止まってるようには見えなかった。自分たちがどうするべきなのか、もう見えているんだろうけどね」
そして、優しく微笑んだ。
今の会長の話を聞いて、胸の中で大きく頷く自分がいる。
俺がしていることは、間違ってはいない。
そう思えた。
泉の行動につられて自分自身を見失わないよう、俺のやるべきことを俺なりに見出だしてきたつもりだ。
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