口癖-2

6/8
前へ
/40ページ
次へ
俺は、ただ手を握りしめていた。 会長には申し訳ないが、俺は泉をライバルだなんて思えない。 そう捉えてしまう俺の心は、荒んでいるんだろうか。 黙りこむ俺が気になったのか、会長が再び口を開く。 「今戦ってるお前たちに、ひとつ言葉を贈ろうか」 そう言って、軽く天を仰いだ。 「彼を知り己を知れば、百戦してあやうからず」 そして視線を俺たちに戻す。 「有名な言葉だね。だが、いざ実行となるとなかなか難しい。事前に調査してデータを集めるのはいいが、忘れてはならないのは『己を知る』ほうだよ。今自分たちはどうあるのか、自分たちがしなければならないことは何なのか、よく見極めていきなさい。まぁ、さっきの悠哉と片桐の返事を聞いて、立ち止まってるようには見えなかった。自分たちがどうするべきなのか、もう見えているんだろうけどね」 そして、優しく微笑んだ。 今の会長の話を聞いて、胸の中で大きく頷く自分がいる。 俺がしていることは、間違ってはいない。 そう思えた。 泉の行動につられて自分自身を見失わないよう、俺のやるべきことを俺なりに見出だしてきたつもりだ。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1046人が本棚に入れています
本棚に追加