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「彼がその死をもって悠哉に教えてくれなければ、私には止めることができなかったのでは?これが実の繋がりというものなのか?…あのときは、そんな思いに駆られていたよ。悠哉を引き取ってから、特にその境界線を意識したことはなかったんだがね」
そして、どこか少しさびしそうにクスッと笑った。
会長の心を思うと、私の胸の中がどこかせつなさで詰まっていく。
きっと会長の胸の中は、私の中にはない、その味はいったいどんなものなのか触れたことのない、複雑な感情に違いない。
私がそう簡単に立ち入ってはいけない気がした。
すると、女将さんが声をかけて中へと再びやってきた。
「はい、健ちゃんたちの飲み物はこちらで。…今からお料理も運びますので、少しの間部屋を行き来させて頂きますね」
そして、料理を運ぶ仲居さんが次々にやって来る。
その様子を楽しそうに眺めている黒田さんだったが、またも悠哉に首を引っ張られていた。
「なるちゃん」
「はい」
呼び掛けに、会長へ視線を送る。
「悠哉は、母親の愛を知らない」
その言葉に、息を飲んだ。
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