君しかいない-1

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そして勢いよく私をベンチから立たせると、そのまま手首を引っ張り歩きはじめる。 「え!?ちょっと!」 頭の中が、全く働かなかった。 「やだ!離して!」 さっきまで泉社長が話していた内容をうまく整理できずに、混乱していた。 「やだってば!」 なんとか捕まれている手を離してもらおうと抵抗するが、彼は足を止めようとしない。 それどころか、必死な私を見て楽しそうに笑ってる。 …怖い。 怖い! どこに行く気なの? このままこの人に連れていかれたら…、どうなるの? それを考えただけで、体が強張っていく。 歩くことを拒まなきゃって思っているのに、うまく足に力が入らない。 緊張で、胸が押し潰されそうになっていた。 そんな私を引っ張って行く泉社長は、このホテルをくまなく把握しているのだろか。 さっき中庭へ入ってきた道とは全く別の道を進んで行く。 人気のない道を選んでいるようだった。 そんな泉社長の背中を見つめ、私の胸の中は悠哉を思っていた。 2人の間にこんなに溝があったなんて、知らなかった。 悠哉は、知ってた? いや、きっと知らない。
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