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そして勢いよく私をベンチから立たせると、そのまま手首を引っ張り歩きはじめる。
「え!?ちょっと!」
頭の中が、全く働かなかった。
「やだ!離して!」
さっきまで泉社長が話していた内容をうまく整理できずに、混乱していた。
「やだってば!」
なんとか捕まれている手を離してもらおうと抵抗するが、彼は足を止めようとしない。
それどころか、必死な私を見て楽しそうに笑ってる。
…怖い。
怖い!
どこに行く気なの?
このままこの人に連れていかれたら…、どうなるの?
それを考えただけで、体が強張っていく。
歩くことを拒まなきゃって思っているのに、うまく足に力が入らない。
緊張で、胸が押し潰されそうになっていた。
そんな私を引っ張って行く泉社長は、このホテルをくまなく把握しているのだろか。
さっき中庭へ入ってきた道とは全く別の道を進んで行く。
人気のない道を選んでいるようだった。
そんな泉社長の背中を見つめ、私の胸の中は悠哉を思っていた。
2人の間にこんなに溝があったなんて、知らなかった。
悠哉は、知ってた?
いや、きっと知らない。
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