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泉社長は自分の車の前までやってくると、私の手首を掴んでいる手とは逆の手で鍵を取り出そうとしていた。
そのとき、とてつもなく胸が締め付けられた。
私の、大切な指輪のことを思い、我慢していたはずの涙がとめどなく流れ出す。
ごめんなさい。
…ごめんなさい。
今は、諦めなきゃ…。
ごめんなさい。
さらに息を吸って、ゆっくり吐き出した。
泉社長が鍵を取りだし、車を開けたその瞬間。
自分の捕まれている手首を思いきり
引っ張っる。
渾身の力を込めて。
そして、泉社長の手をバッと振り払い、思いきり彼の体を押し倒した。
すぐに体をひねり、その場から勢いよく駆け出す。
い、急いで!
どこか、人通りの多い場所に!
胸の中で強く叫び、一所懸命に駐車場の中を駆けていく。
呼吸をしているのかしていないのかもわからないほど、無我夢中で。
もちろん、後ろを振り返る余裕なんてなかった。
けれど…。
すぐにやりきれない思いが溢れ出す。
この日のためにしたオシャレが、全て裏目に。
自分が選んだ高めのヒール、めずらしく選んだロングのスカートの裾が、足元の邪魔をする。
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