君しかいない-1

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泉社長は自分の車の前までやってくると、私の手首を掴んでいる手とは逆の手で鍵を取り出そうとしていた。 そのとき、とてつもなく胸が締め付けられた。 私の、大切な指輪のことを思い、我慢していたはずの涙がとめどなく流れ出す。 ごめんなさい。 …ごめんなさい。 今は、諦めなきゃ…。 ごめんなさい。 さらに息を吸って、ゆっくり吐き出した。 泉社長が鍵を取りだし、車を開けたその瞬間。 自分の捕まれている手首を思いきり 引っ張っる。 渾身の力を込めて。 そして、泉社長の手をバッと振り払い、思いきり彼の体を押し倒した。 すぐに体をひねり、その場から勢いよく駆け出す。 い、急いで! どこか、人通りの多い場所に! 胸の中で強く叫び、一所懸命に駐車場の中を駆けていく。 呼吸をしているのかしていないのかもわからないほど、無我夢中で。 もちろん、後ろを振り返る余裕なんてなかった。 けれど…。 すぐにやりきれない思いが溢れ出す。 この日のためにしたオシャレが、全て裏目に。 自分が選んだ高めのヒール、めずらしく選んだロングのスカートの裾が、足元の邪魔をする。
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